4.特殊環境(低圧・低酸素・重力)による航空医学の研究

30年前の航空医学実験隊は埼玉県の航空自衛隊の入間基地に細々とあり、当時、陸・海と違い予算が少ないのかなぁーと思いました、しかし今はJAXAが存在して国家の宇宙プロジクトになりました。その医師のトップは防衛医大出身の三丸先生になり、夢は広がります。当時の航空医学実験隊の研究の主体は動物実験の域を脱していなく、過重力をかけた時の動物実験でありました。過重力をかけた時の安全性は動物の生理学的モニターを集めた実験でしたので、臨床応用が出来なくプロジクトを中止しました。いま米国では陸・海・空に加え宇宙軍が創設され、本邦も検討されている時代、宇宙特に過重力の異常環境下は、生体特に筋肉には良い影響を与え夢は広がります。過重力の異常環境下では、未知の分野ですが、人類に多大な恩恵を与えるのは、自明の理です。今後が楽しみです。

 

参考資料:臨床呼吸生理学(2)本田良行、低圧の影響。環境の変化に対する呼吸の適応。万木良平。

3.特殊環境(高圧・高酸素)における潜函病(減圧症)の研究

 横須賀は海軍・海上自衛隊の街でありますが、私は防衛医科大学第3内科の呼吸器内科講師の時代、横須賀のはずれにある潜水医学実験隊をしばしば訪れました。防衛医科大学は当時ヨット同行会があリ、私は同行会長を努めていましたので実験隊で研究後は学生と一緒に小型ヨットでツーリングを楽しみました。ちなみに小型(Y15)のヨットハーバーは少年海上自衛隊の入江でした。郷里信州には海がなく幼少の時は親に連れられ日本海に海水浴に行きましたが、日本海の海は怖い印象が強く感じましたしかし湘南、横須賀の海は穏やかでセーリングが楽しい日々でした。潜水医学実験隊での研究は肺拡散機能、酸素運搬の異常環境(高圧)負荷によるメカニズムの研究で、臨床の応用としては人工呼吸器の作製の研究にまで応用されましたが、極めて難解であり、基礎研究のみに終わりました。横須賀での思い出は横須賀カレーを頰ぶりながらホーカーを覚えたことであります。海軍はけして麻雀をしなく、トランプ遊ぶが得意であります。潜水艦で麻雀をしたら、敵の音波探知機に見つかるからだそうです。

 

参考資料:臨床呼吸生理学(Ⅰ)   本田良行、環境の変化に対する呼吸の適応。

高圧の影響、小林庄一。真興交易医書出版部。

2.特殊環境(低圧・低酸素)による高山病(高地性肺水腫)の研究

長野県松本市日本アルプスの麓にあり登山のメッカでもあります。当時都会のサラリーマンが夜行で来て、そのまま2500m以上に登山し、高山病罹患して下山途中沢に落ちて、山岳救助隊にてフェリコプターで信州大学病院に搬送されるケースが多く見られました。全ての症例は肺水腫及び脳浮腫を起こしていました。そのメカニズムの研究は信州大学第1内科の呼吸器グループではじまつたのです。そのチームリーダーは小林俊夫先生であり医師としても研究チームの監督としても天才的でした。あっという間に研究が内外で有名となり、必ず主任教授になると思ってましたが、国立大の不思議な点、小林先生は足を引っ張られ循環器の先生が主任教授になってしまいました。その後は小林先生のお弟子さんである久保、花岡、藤本、芝本先生など多数の教授を輩出した小林先生の功績は多大です。当時の研究で際立っていたのは、信州大学繊維学部よりもらい受けた羊を、1に前述した低圧・低酸素チエンバーに入れ異常環境における肺循環動体の実験を起こないましたが、肺高血圧症、ARDS(急性肺循環障害)のリンパの流れが重要であることが解明され、お薬の開発等、沢山の患者さんを救っています。懐かしのは実験が終わり成仏の気持ちを込めてのジンギスカン料理の味は今でも忘れられません。

 

参考資料:呼吸器疾患ガイドライン 総合医学社(平成16年12月発刊)

     編集:松岡 健

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1.特殊環境(低温・低湿度)における気道への影響

私のフランス4年間留学時代の研究テーマの1つは、口から吸った酸素がどのように肺まで流体力学として運ばれるか?が1つのテーマでありました。特に気管支喘息慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者さんは末梢の気管支には炎症の燃えかすである喀痰などが詰まっていて、酸素が肺にうまく到達しないため、呼吸困難に陥り重症化してしまうのであります。この研究は信州大学帰国後も続き、信州大順応生理学(上田五雨主任教授)にて研究が継続できました。、故上田先生の研究室には本邦屈指の低温、低圧チエンバーがありました。故上田先生とは第27回パリで行われた国際生理学会でお会いし、偶然ノーベル賞受賞者の樹状細胞発見者スタンウエイ先生を紹介頂いたり、私のアパートに来て和食を食べていただいたりして懇親を深めていただいたので、講座を超えて低温低圧チエンバーを使わせていただき、第28回の国際生理学会の奨励賞を頂くことが出来ました。深謝しております。内容は下記論文を参照いただければありがたいのですが、冷たい空気や乾燥した空気は気道から熱と湿度を奪い呼吸器疾患の引き金になると報告しました。俗にいう冬場夜間加湿を行わない暖房継続は気道を収縮します。また看取りの患者様が朝方多いのは温度が低くなるからでしょうか?また小児喘息の患者さんは水泳が良いのは気道が加湿するからと思われています。

 

参考資料

賞:1979年7月、第28回国際生理学会(ブタペスト)奨励賞

  (The effect of cold air exercise on the paramenters of airway mechanics)

はじめに

2年半前、医療創生大学(磐城)の入学式列席後、大学を後に東京へ帰宅しようとしたとき、「帰りのヘリコプターの席がひとつ空いているので乗らないか?」と総長からお誘い頂きました。分に過ぎるとはいえ、私の恩人であり尊敬して止まない総長兼理事長先生からのご厚情、ありがたく二つ返事でご好意に甘えました。

 

 その時、搭乗機に乗り合わせたのが田口信教副学長(ミュンヘン・オリンピック金メダリスト)でした。田口先生は飛行中、機体が急旋回しても動ずる風もなく、さすが金メダリストと感心したのですが、この急旋回が縁となり、「極限環境」や「加重力」という共通の話題で機中は盛り上がったのでした。

 

 田口先生はスポーツ医学としての「極限環境」を自らの肉体を削りながら実体験されたこの分野「筋金入り」の専門家であり、私も信州大学大学院時代、高地性肺水腫(低圧低酸素環境)のメカニズムを学び、パリ大学留学時代はヒートロス(温度と湿度のロス)による気道の影響に関する研究(気管支喘息)、さらに防衛医科大学時代には潜水医学実験隊にて高圧による肺への影響、航空医学実験隊では微小重力、低圧による肺への影響などを研究していた関係で、極限環境や加重力といった分野への関心が強く、田口先生とすっかり意気投合したのでした。

 

 それ以来、今でも機会を見つけては極限環境や過重力、更にはその発展分野である宇宙工学・宇宙医学といった話題で歓談を重ねています。過重力や宇宙医学は、日常生活とは縁遠い特殊な話と想われがちですが、運動や力学という日々の暮らしを支える自然科学の応用として導かれる学問であり、その終着は宇宙という実に壮大なテーマであります。

 

 時間を忘れて田口先生と盛り上がる床屋談義の「お裾分け」を意中に、興趣が尽きない深味あるこの話題を堅苦しさのない普段着のエッセイとして届けたいと考え、このブログを開設しました。

 

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